Faylay~しあわせの魔法
「貴方と言う人は……」

ヴァンガードは呆れて深く溜息をついた。

「それは理想です。確かに人が争いを起こしたのでしょう。ですが、この千年もの間、ずっと魔族とは争ってきたのですよ。そうすぐには……」

「すぐじゃなくてもいい。時間がかかっても、ゆっくり、お互いを受け入れられないか……試したいんだ。駄目だって言って諦めるのは簡単だ。だけど、それじゃいつまで経っても変わらない。また哀しむ人が増えるだけだ」

「……分かりました。皇后陛下に相談してみます。ですが!」

ヴァンガードはフェイレイの目前に人差し指を突き出す。

「貴方はリディルさんを探しに行くんですからね。こんな不用意に怪我しないで下さい!」

彼は頬を膨らませて怒りながら、フェイレイの怪我をテキパキと手当てしていく。

「それに、ここでこんな怪我したら、アライエルの人たちの面子丸つぶれですよ! 国際問題になりますよ! もう少し考えて行動してください! このまま城に戻ったら大騒ぎじゃないですか! 僕はリディルさんと違って、怪我したって治して差し上げられませんからね!」

「……はい。気をつけます」

フェイレイのマントをぶん取り、細く千切って作った包帯で腕をぎゅうっと締め上げると、しゅん、とフェイレイは項垂れた。それでヴァンガードの怒りも若干収まる。

「リディルさん、言ってましたよ。貴方の怪我を治してあげたくて、精霊士になったんだって」

思えばその話を聞いたときがヴァンガードの恋の始まりであり、終わりでもあったのだ。

『内緒だよ』と言った彼女の顔を思い浮かべ、少し切なくなりながら包帯を巻く。

「……だから、怪我、しないでください。リディルさんが哀しみます」

そんなヴァンガードに、フェイレイも何かを感じたようだ。

「気をつける」

ヴァンガードから視線を逸らし、薄雲のかかる青空を見上げる。

そうしながら水色の髪をくしゃりと撫で、笑みを浮かべた。

「ヴァンはいいヤツだな」

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