Faylay~しあわせの魔法
ヴァンガード、タウと背中合わせに立ち、グルグルと回る魔族たちを見上げる。

「我らから猊下を奪い去ったお前が」

バサリ、と黒い羽が目の前を通り過ぎる。

「自分たちの都合で奇麗事を抜かすな」

バサ、と羽が頬を掠り、ピリリと痛みが走った。

「そんなの! 貴方たちだって人間を殺してきたくせに!」

ヴァンガードがたまらず叫ぶと、魔族のひとりが彼に向かって強く羽を振るった。その前に素早くフェイレイが立ち、腕を翳す。

その腕は攻撃するためでなく、ただ防御するためだけに出された。

鋭い羽がフェイレイの腕を掠め、ざっくりと肉を切り裂く。

「フェイレイさん!」

「フェイレイくん!」

ヴァンガードとタウの声を背後に聞きながら、フェイレイは魔族から目を逸らさなかった。

「確かに俺があんたたちの仲間を……殺してきたんだ。それが正しいことだと思ってた。でも、そうじゃないんだと気づいた」

「何を言うのか」

魔族たちはせせら笑った。

だが構わず続ける。

「俺は、誰かを哀しませていただけだった。殺しあうことで憎しみが憎しみを生み、この千年ずっと俺たちは戦い続けてきた。だけどそれが、誰かを哀しませているのだということに気づかなかった。あんたたちが俺たちと同じだとは、思っていなかった」

「それこそが人の驕りだ」

「そうだ。驕っていたんだ。自分たちに正義があると信じて疑わなかった。だから争いは終わらなかった」

フェイレイは血の流れる腕を翳し、魔族たちに見せ付ける。

「このままでは、また血が流れる。また誰かを哀しませる。……戦いを止めることは、出来ないだろうか」

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