Faylay~しあわせの魔法
初めて精霊王に会ったときと同じように、真っ白な空間の中をフェイレイは歩いていった。

上も下も、見渡す限り真っ白で、平衡感覚がおかしくなり、少し気分が悪くなってくる。

それに耐えながら歩いていくと、やがて白い霧が晴れてきた。

前に見たのと同じ、黒檀の巨木が重厚感を漂わせながら立っているのだろうと思っていたのだが、見えてきたのは根元からぽっきり折れ、倒れた姿だった。

「……精霊王!?」

駆け寄って折れた箇所にそっと触れる。

巨木に連なる人の顔も、目を閉じたまま動くことはなかった。

「精霊王……あの戦いで……」

《私も無限の力を持っているわけではない。許容を超えればこうなる》

どこからともなく、声が響いてきた。

「それなのに力を貸してくれたのか……」

《ティターニアを解放したのは私だ。その責任を取ったまでよ……》

こう、こう、と、苦しげな息遣いが聞こえてくる。話すことも辛そうだった。

《あれは、私の力を切り離して生まれた者。そのうち私の力を食い尽くして、次の精霊王になるはずであった。だが……こんなことに》

声の主を探して折れた巨木に沿って歩いていくと、大きな翁の顔が見えてきた。

白い霧に包まれた地面に半分顔を埋め、瞼を閉じている。

《あれは慈悲の心が強すぎたのだ……害となるものを切り離せば、今頃は愛しい者としあわせになっていただろうに……》

「……ティターニアは、魔王のことが、好きだったのか」

こう、と息遣いが響いた。

《……そうすれば、人と魔族も争わずに済んだかもしれんのにな……》

ランスロットを見放すことが出来なかった。それが今の状況を生み出してしまったのだとしたら。

「リディルはティターニアの記憶も思い出してた。……だから」

余計に自分の存在を消したかったのか。

無駄な争いを生んでしまった自分“たち”を責めて。

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