Faylay~しあわせの魔法
《助けて、やりたかったが……》

精霊王はこう、と息を吐き出す。

《ティターニアに力を渡していた私は、魔王を封印したことですべての力を失い、とても救い出す力は残っていなかった。だから時間をかけあちこちから力を寄せ集めた。そしてこんな姿になった》

顔のたくさん浮き上がる巨木。

これは精霊王が力を寄せ集めた結果だったのだ。

《千年、かかった。その間、たったひとり、自分を責め続けて、苦しんで……もういいだろう。私は、あれをしあわせにしてやりたかった》

だが、と精霊王は言う。

無駄な争いを引き起こしてしまった自分を責めているティターニアは、決して外に出ようとはしなかった。

また過ちを犯すかもしれない。

誰かを不幸にするかもしれない。

この力を、争いの火種にしてしまうかもしれない。

《その恐怖を取り払うために、人間になれと言った》

こう、こう、と苦しげに息を継ぎながら話す精霊王。

《すべてを忘れて輪廻転生し、魂に業を刻みつけながら生きる人間に。そこでならきっと、お前は受け入れられると……私は……》

精霊王の息遣いが更に苦しそうになる。

フェイレイは心配になって精霊王に話すのをやめさせようか迷ったが、彼は必死に伝えようとしていた。

《人となってもその身に持つ膨大な力は隠しようがない。だから、人の中でも最大の魔力を受け継ぐ一族に……皇家に運んだ。それが、この結果に!》

精霊王はグッと唇を噛みしめた。

「……そうだったのか」

フェイレイは涙を堪え、笑みを浮かべた。

色んな哀しい出来事があった。辛い出来事があった。けれどその根源にあったものは、温かい心だったのだ。

「みんな、しあわせを願っていただけだったんだ」

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