Faylay~しあわせの魔法
ゴトン、ゴトンと水車を回す小川の向こうに。

次第に晴れていく白い霧に見え隠れするのは、ハニーブラウンの長い髪をし、長いドレスに白いエプロンをつけた、翡翠の瞳の女性だ。

「……リディル!?」

フェイレイは駆け寄ろうとして、足を止めた。

──違う。

白い肌も、翡翠の瞳も、リディルにそっくりではあるのだが、小川の向こうに立ってジッとフェイレイを見つめているのは、もう少し年上の女性だ。


回る水車小屋。

清らかに流れる小川。

そこに佇む、リディルに良く似た女性──。


「……もしかして、リディルの……お母、さん……?」

信じられない思いでそう言うと、リディルの母──シャンテルが、柔らかく微笑んだ。

「なんでこんなところに……」

フェイレイの疑問にシャンテルは答えることなく、黙って腕を横に挙げた。

その指し示す方向には暗い森が広がっていて、そこにフェイレイから一直線に細い光が伸びていった。左手の指輪の光が再び戻っている。

「……この先に、リディルが?」

シャンテルは、黙って頷いた。

そして、桃色の唇を開く。

声は聞こえなかった。

けれども何と言っているのか、フェイレイには解った。

『あの子を、よろしくお願いします──』

シャンテルの頭がゆっくりと下げられ、フェイレイも慌てて頭を下げ返した。

< 766 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop