Faylay~しあわせの魔法
このままではリディルに逢えない。

そう思い、ブルブル震える腕をなんとか挙げて階段の縁を掴む。そうして起き上がろうとしたが、逆にズルズルと倒れる羽目になった。

階段を背にし、塔のてっぺんを眺める。

指輪の光は、真っ直ぐに上を指していた。

(行かないと)

絶対に連れて帰るんだ。

その想いだけで身体を起こし、階段を這うように何段か上って、また動けなくなった。

もう身体が動かない。

「リディル……」

うつ伏せになったフェイレイの目に、小指で光る指輪が映る。

この指輪から伸びる光に乗って、声だけでもリディルに届かないだろうか……。そんな祈りを込めて、呟く。

「一緒に、帰ろう……」

フェイレイの声は、塔を包み込む静かな闇に吸い込まれていく。

「リディ、ル……」

フェイレイの目が閉じられる。

同時に指輪の光もふっと消えた。

階段も、壁も、フェイレイの姿も、何も生み出さない闇の中に呑まれていく。


静寂に包まれた世界が訪れる。

そこに、ぽっと光が灯った。

フェイレイの小指の指輪が、まあるい白い光に包まれている。

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