Faylay~しあわせの魔法
それから2ヶ月ほど眠り続けた少女は、すっかり記憶を失っていた。

自分の名前も、どこから来たのかも、どうして川に落ちたのかも、何もかもを忘れてしまっていた。

このところの災害続きで行方不明者が続出していたから、身元を探し出すのも困難だった。

そこでフェイレイの両親が里親となり、グリフィノー家で育てられることになったのだ。

綺麗な翡翠の瞳に、ハニーブラウンの長い髪を持つ少女は、人形のように愛らしかった。

娘の欲しかったアリアはその愛らしさの虜となり、まるで自分の娘のように可愛がった。『リディル』と名前を付けたのもアリアだ。

そんな愛らしいリディルの虜になったのはアリアだけではない。フェイレイもだ。

ギルドから家に戻り、自宅療養をするリディルをドアの隙間からそっと眺め、「かわいい~!」とメロメロになっていた。それを温かい目で見守るランス。


しばらくしてリディルの怪我も回復し、異常気象も徐々に落ち着いてきて、騒動は落ち着いてきてはいたものの、心配事がなくなったわけではなかった。

記憶を失くしたリディルは、表情も失くしてしまっていた。

笑うこともなければ、怒ることも、泣くこともない。

「笑ったら、きっとかわいいのになぁ」

フェイレイはそう思い、元気になったリディルを毎日のように外に連れ出しては、美しいセルティアの国の様子を見せてやった。


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