Faylay~しあわせの魔法
彼の傍に在るためには、彼の望むようにしてあげることが一番だと本能的に感じ取ったリディルは、笑おうと努力した。

笑うとかわいいよ。

フェイレイはそう言っていた。

だから、笑おうとした。

頬を両手で引き上げて、笑っている顔を作り上げてみたり、声を出してみたり。本当に可笑しいわけではなかったが、そうすることでフェイレイは喜んでくれたし、それがリディルも嬉しかった。

けれども、フェイレイの差し向けてくれる笑顔が大事になればなるほど、リディルは怖くなっていった。

この笑顔がなくなったら。

この温かな手が、離れていってしまったら。どうしたらいいのだろう。


内から湧き上がってくる恐怖は何故、どこからやってくるのか、記憶のないリディルには理解出来なかった。

暗くてドロドロした底なし沼に、見えない力で引っ張られている。

そんな夢を毎夜見るようになり、夜中に飛び起きては外に飛び出して、大きな木の下に蹲って泣いた。

誰にも気付かれないように、声を押し殺して。


そんなリディルの異変に、最初に気付いたのはフェイレイだった。

笑顔を見せ始めたリディルに、嬉しく思っていた彼だったが、どこか、何かが違う。

< 87 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop