Faylay~しあわせの魔法
「……ヴァンは」

ふと、突然リディルが声をかけてきた。

「は、はいっ?」

ヴァンガードは驚いて顔を上げた。翡翠の大きな瞳が、ヴァンガードをジッと見つめている。

「泳げるようになりたいの?」

「は?」

それは唐突な質問で、どこからそれが出てきたのか分からずヴァンガードは首を傾げた。

「……ずっと見てるから」

と、リディルは海を指差した。

そこには、物凄い勢いで泳ぐフェイレイがいた。どうやら、無意識のうちに目で追っていたらしい。

「あ、そうですね。本当は水泳も必修なんですよね。精霊を召喚出来る者は免除されてますけど……リディルさんもそれで免除されてるんですか」

「うん。……私、小さい頃川で溺れたらしくて。それ以来、まったく駄目で」

「あ……」

ヴァンガードは昨晩フェイレイから聞いた話を思い出す。

リディルは変わらず無表情でまったく感情は読めないが、それは嫌な思い出であるに違いない。

少し気まずい空気が流れ、ヴァンガードは慌てて話を繋げた。

「でもリディルさんほどの召喚士なら、泳げなくても問題ありませんよ! 水属性の精霊たちが護ってくださいますから。僕はそこまで魔力がありませんから、やっぱり泳げるようにした方がいいかなぁ、なんて思いますよ」

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