歌姫ロンリネス
電車に乗って、手短な席に座る。
ふと、行き先の隣の駅前のデパートを思い出す。
そこの二階には楽器屋があって、遊びに行くと私はいつも外から眺めてるだけだった。
見えない壁があって、遮られてるような気がして。
「今日は、中まで入っていいんだ…」
「別にいつでも入ればいいじゃねーか。でも定休日だと盗みだな」
「ははっ、確かにそうですね」
何気ない冗談に、なぜか笑みが零れる。
「お前、そうしてた方がいい」
「…え?」
「お前って、何かどこか無表情で…悲しそうなんだよ。
だから、笑ってた方がいい。可愛い」
「……?そう、なんですか?」
「うん」
「でも私―『……駅―降りる際にはお忘れ物などの―…』
「降りるぞ」
「は、はいっ…」
先輩が差し出した手を、握る。
"引き攣った笑みしか出来ないんですけど"
…言えなかった。
別に、言わなくてもいいと思うけど。
「ひなた」
「はい?」
「無理に笑うとブスになるからな」
「了解です」
そういって、笑った。
やはり不思議で仕方がない。
最近会ったばかりなのに…。