歌姫ロンリネス

電車に乗って、手短な席に座る。

ふと、行き先の隣の駅前のデパートを思い出す。

そこの二階には楽器屋があって、遊びに行くと私はいつも外から眺めてるだけだった。

見えない壁があって、遮られてるような気がして。

「今日は、中まで入っていいんだ…」

「別にいつでも入ればいいじゃねーか。でも定休日だと盗みだな」

「ははっ、確かにそうですね」

何気ない冗談に、なぜか笑みが零れる。

「お前、そうしてた方がいい」

「…え?」

「お前って、何かどこか無表情で…悲しそうなんだよ。
だから、笑ってた方がいい。可愛い」

「……?そう、なんですか?」

「うん」

「でも私―『……駅―降りる際にはお忘れ物などの―…』

「降りるぞ」

「は、はいっ…」

先輩が差し出した手を、握る。

"引き攣った笑みしか出来ないんですけど"

…言えなかった。

別に、言わなくてもいいと思うけど。

「ひなた」


「はい?」


「無理に笑うとブスになるからな」


「了解です」


そういって、笑った。

やはり不思議で仕方がない。

最近会ったばかりなのに…。





< 12 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop