歌姫ロンリネス
「…先輩……」
「ん?」
「…先輩って、何者ですか?」
ポロッと口から出た言葉。
「は?…俺は、俺だ」
困ったように笑いながら先輩は答えた。
視線を下に逸らすと、綺麗な青色の蝶が羽をはばたかせ空を飛ぼうとしていた。
しかし羽に怪我でもしているのか、その綺麗な羽が浮き上がることはない。
何だか、虚しくなった。
「行くぞ」
「あ、はいっ」
駅から出ると、初夏の強い日差しで暑い。
でもすぐにデパートだから、涼しくなる。
エスカレーターを昇って、フロアの1番端へ。
【山村楽器】
そう書かれた看板を目にして、思った。
ついに、ここまで来た。と。
「お、カケ〜、ついに彼女出来たか?」
カウンターから顔を出し、手を振りながら笑う、店員さんとおぼしき人。
茶髪の長い髪を後ろで結んでて、サーファーかミュージシャンが似合う感じの人。
20代前半に見える。
「違う、後輩。てか歌姫」
説明不足にも程がある。
「瀬良先輩、説明はきちんとしてくれませんか?」
「後輩…、歌姫…。
あっ、波川ひなたちゃん?」
何で知っているんだ。