歌姫ロンリネス
スタジオを借りるお金はなかったので、デパートの中にある喫茶店で電車の時間まで暇つぶし。
「……ジョンソン…♪」
椅子の上にかけてあるジョンソンを見て、思わず笑みが零れる。
「あ、明日の昼休み、屋上来い」
「え?」
クリームソーダの氷をストローで突く瀬良先輩。
後ろの席の女子高生もキャーキャーと騒いでいる。
「ちょっと、あれって隣町の瀬良くん?」
「だよねだよね!超かっこいい!!」
「一緒にいんの誰だろー?」
「妹じゃん?」
「ああ!妹も可愛くない?」
「ね、話しかける?」
「え〜恥ずかしいよぉ」
…うるさい。
黙ってほしい。
失礼なのはわかってる。
でも嫌なんだ。
今はジョンソンを買った喜びに浸りたかったのに。
「ひなた?」
「…はい……」
声が、震えていた。
たまにこんなことはあったけど、最近はなかったのに。
無性に怖くなった。
誰が、というわけじゃない。
誰かが。
「怖いのか?」
「……はい…」
少し考えて、頷く。
「店出るか?」
小さく頷くと、先輩は微笑み、ぽんっと頭を撫でてくれた。