歌姫ロンリネス

「か、カラオケ…!!
は、行きたくないんだよなぁ…」

思わず溜息が出る。

「お前は知らねーと思うが、ここもカラオケも毎日待ち伏せされてんだぞ?」

「え…どこに?」

「今日はカラオケらしいって噂流したからほとんど人いねぇけど、いつもは木の影とかに」

きっと面白い光景だろうな…。
木の影に隠れきれてない学生達。

あれかな?遊具とかにも隠れちゃったり?

「とりあえず行ってみるか?カラオケ。ほら」

先輩は私にマスクを渡すと、スタスタと公園を出て歩いて行く。

方向的にカラオケ。

この町に二軒しかないカラオケ店の一つ、「カラオケの館」だ。



……ざわ、


「………無理……」


風化しそう。
砂になりそう。
猫になりたい。
風になりたい。

……


……

砂になりたい。


「あの…すみません」

顔はバレてないらしいので、とりあえず店内に入り、店員さんに声をかける。

「いらっしゃいませ」

「空いてる部屋は?」

「5番のお部屋ですね」

「2時間で」

素早く出されたマイクの入ったカゴを掻っ攫い、5番の部屋に急ぐ。

「あれっ、おい待てよ波川ひなた!」

……!?

「せ…先輩!?」

振り向くと、いつの間にかいた瀬良先輩が入口に立ち、あさっての方向を指差している。

『どこだー!?』

『瀬良先輩の情報なら間違いねえ!!』

『ぜひうちのバンドにー!!』

『いやうちのバンドに!!』

…駄目だよ。

私なんか入れちゃ駄目だよ。


私がいる真逆に走っていく人達に、瀬良先輩はべーっと舌を突き出す。

「じゃ、行くか」

少し嬉しそうな先輩は、「5」と書かれた部屋に入っていく。






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