歌姫ロンリネス
……何なんだろう…。
言われるがまま中に入ると、ソファにぐったりともたれ掛かる瀬良先輩。
「歌わねーのか?」
荷物を置き、向かいのソファに座る私を見ながら尋ねてくる。
「あ、いえ…。
久しぶりにカラオケ来たし、ちゃんと歌いますよ」
「…そうか」
微笑み、私が選曲しているのを見ている瀬良先輩。
…あれ、何普通にしてんだ私?
今まで一切関わりのなかった人間なのに。
異性で。
密室で。
ふたりきり。
危ないにも程がある。
…ま、でも大丈夫だろ。
誰も私を襲おうなんて腐った脳みその奴はいない。
「……よしっ」
送信ボタンを押して、すぐ。
イントロが聞こえてくる。
……3、
……2、
……1、
遠くに引き裂かれる恋人同士の歌。
別れる前に伝えたいことを伝える歌。
まだ私にはわからないけど。
思い切り歌った。
声を張り上げて。
いつも小声で歌う歌を、
高らかに。
『今すぐ…抱きしめて…』
メロディが止み、深呼吸をする。
久しぶりにすっきりした感じがする。
物足りないけど。
そして急に――、
――抱きしめられた。