歌姫ロンリネス



―「先程は申し訳ありませんでした!これ、サービスです!」

コトン、とクリームソーダが入ったコップと、フライドポテトの乗った皿が差し出される。

氷がカランと音をたてれば、喉が渇いていると自覚する。

「頼んでないのに、いいんですか?」

「いいんです!私が鼻血出したのが悪いんだし、せめてものお詫びです」

「はあ…」

「では、失礼しましたっ」

ガチャッ、バタンッ

沈黙。

「クリームソーダ…」

「嫌いか?」

「いや、いつの間に頼んだんですか?」

「入った時」

「気付かなかった…」

「だろうな」

スプーンでバニラアイスを掬って、口に入れる先輩。

…クリームソーダが似合うなぁ…とか思ってしまう。

「ん、うまい」

あ、でもクリームソーダに似合うとかないか。

なんて思いながら自分もアイスを一口。

とろんと溶けて、バニラの甘さがふわりと香っていく。


「おいしい」

思わず顔を綻ばせると、先輩が私の頭を撫でた。

「?」

「何でもない。俺歌うぞ?」

「?わかりました」



――♪


あ、これ…。

私が好きな歌だ。
初めて好きになったバンドのデビューシングルで。

初めて自分で買ったCDの曲。

今じゃ結構有名になったし、今でも大好きだ。

疾走感溢れるドラムやギターの音。

『言いたいことを…上手く言えなくて…だから、言えなくて―』

青春の苦しみを乗り越えていく歌。


そんな大好きな歌に、

先輩の声が、綺麗に溶けていった。




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