愛しいライカ

「何あれ…」


拍子抜けとはこのことを言うのかもしれない。

男が現れるまで私はここから飛び降りたい衝動に駆られていたのに気が付けばそんな気持ちは消え去ってしまった。

というより萎えてしまった。

場所を変えようかと考えたが、あの男の言葉が頭の中に焼きついて離れようとしない。

このままじゃ気になって仕方ない。

なんとなく男の思惑にはめられたような気がするが、私は家に帰ってスプートニク号のライカ犬のことをインターネットで調べてみた。

その内容は私に衝撃を与えた。

1957年11月3日。

ライカという犬を乗せたスプートニク2号はバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、地球軌道に到達した。

最初に宇宙へ行ったのは人間ではなく犬だったということに私は驚いたのだが、それ以上に驚くことがあった。

実はその宇宙船にはライカが生きて戻ってくるための装置はない。

当時はその装置を作れるだけの技術は人間になかった。

つまりライカは片道切符だけを渡されて宇宙へと旅立ったことになる。

そして、ライカは発射後、わずか数時間でショックと熱による極度の過労で死んでしまった。

狭いカプセルの中でただ、一匹。
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