愛しいライカ

窓を開けると、少し冷たい風が吹いた。

ハンナが私の足に寄り添うようにしてもたれかかる。

彼女は一年前に近所の人から譲り受けたボストンテリアだ。

おなかを撫でてやると、その愛らしい顔はとても気持ちが良さそう。

もしも。

犬種は違うけれど、もしもハンナがライカだったらと重ね合わせると私は考えただけで目頭が熱くなった。

やばい。泣きそう。

たった一匹、宇宙に取り残された犬。

何度鳴いただろう。

何度吠えただろう。

でも決して届かない声。

まるで私みたいだ。

私も独り。

昨日、両親が離婚した。

理由はよくある「価値観の違い」。

いつからだろうか。

毎日のように喧嘩しては母親は家出の繰り返し。

父親はよく家を空けるようになった。

この家に一人残された私は明日からどう生きていけばいいのだろう。

途方に暮れて、気が付けば私は学校の屋上に向かっていた。

きっとあの男がいなければ、今私はここにいなかったと思う。

クウン、とハンナが私を見上げる。

何かを訴えるような眼差しを向けるハンナに、私は口元を緩めた。


「そっか。ごめんね、ハンナ。私にはあなたがいるもんね」


ハンナを抱いてリードを手に取る。

玄関を出ると夕陽が顔を出して街全体をオレンジ色に染めていた。


「行こうか。ハンナ」


ハンナが吠える。

私は夕陽に続く道を歩き始めた。
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