愛しいライカ
「調子はどう?」
振り返るとパーマの男が立っていた。
黙ったまま俯いている私に、
「昨日言ったマイライフ・アズ・ア・ドッグの映画だけど主人公が残す印象的な言葉があるんだよ」
と彼は切り出す。
そして、
「人工衛星に乗せられたライカ犬よりは僕のほうが幸せ」
私と彼の声がきれいに重なった。
ふっ、と彼が笑う。
「観たんだ?」
「はい」
私もつられて笑った。
見上げると雲ひとつない青空が広がっている。
この空の向こうはどんな宇宙が広がっているのだろうか。
本でしか見たことがない私はその世界を想像したくても想像できない。
「…ライカはどんな気持ちだったんだろう。すごく寂しかったんだろうな」
私はぽつり、と呟いた。
「きっと今の私と同じ」