アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
いつの間にか俺の頭上に浮かんでいた黒いモヤモヤした球体。
黒いモヤモヤとドロドロが渦巻いて、見ていると吐き気が込み上げた。
「(なんだよこれ!?)」
球体はゆっくりと浮かんだまま動き、壁を通り抜けてどこかに消えた。

この時は事故で頭を打ったせいで幻覚を見るようになったのか。と思ってた。
だけどその後の検査でどこにも異常が無かったのに、病院の中であの黒い玉を目撃し続けた。しかも俺以外には見えてないらしく、そういう所もあってなかなか存在を信じられずにいた。

そんな中でも毎日のリハビリテーションのおかげで身体の調子も回復していき、退院に向かって順調に進んでいった。
そうしていく内に黒い玉の存在も最初ほど気にならなくなっていった。
それに少しづつだけど数も減っているみたいだし。
そんなことを思いながら黒い玉を横目にリハビリに取り組んでいると、
「毎日良く頑張ってるわね。」
若い女の先生が声をかけてきた。
「早く退院したいんで。」「他の患者さんもそうやってやる気を出してくれると嬉しいんだけど…。」
先生はため息混じりに話す。
周りを見渡すと俺の他にはお年寄りが3人いるだけだ。
「若い患者さんは君みたいに頑張ってくれるからある程度すると退院してくれるんだけど…。」
「そんなに悩んでも仕方ないですよ。先生美人なんだからもっと笑って笑って。そうすれば皆やる気出してくれますって。」
冗談っぽく言うと先生は「何言ってんのよ。」と笑ってくれた。
「ははは。いや、本当!本当!ははは。」
と、背後から冷たい視線を感じて振り向くと、お年寄りの1人が顔を赤くして立っていた。
「何なんだ!お前は!私達をバカにしにきたのか!」お年寄りの杖を握りしめる手が、わなわなと震えていた。
「別にそんなつもりじゃ…。」
そこで俺は気づいた。
お年寄り周りを黒いモヤモヤが漂っていたのだ。
「…(これ…、どっかで見たことある…。)。」
ゆっくりと黒いモヤモヤはお年寄りの体にまとわり着いていく。
それと同時にお年寄りの怒り加減は増した。
「だいたいアンタみたいな若い先生じゃ治るものも治らないってんだよ!」
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