アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

お年寄りは敵意を剥き出しにした目で俺と先生の両方を睨み付ける。
先生は戸惑った表情をしている。
「おい、じいさん！んな言い方しなくたっていいだろ！」
「今時の若い者は言葉の使い方も知らないのかっ！」お年寄りは震える手で四本足の杖を高々と振り上げ、俺に向かって振り下ろしてきた。
驚いた。
自分の体を支えるのに精一杯に見えた年寄りにこんなことが出来るとは思いもしなかった。
そして、「がっ！」と鈍い音が１つ。
だけど、何より驚いたのは。
「君…大丈夫なの！？」
さっきまで油の切れたロボットみたいな動きをしていた俺がいとも簡単に杖を避けていた。それもバイク事故を起こす前よりはるかに軽快な動き。

バイク事故？

咄嗟だったからからだろうか？
いや、
「体が軽い！」
呆気にとられている先生を後目に俺が１人喜んでいると今度は杖が先生を狙った。
「おせぇよ。」俺は杖を掴み、力で床に戻した。
「杖の正しい使い方も知らねえの？」
「ぐぅ…！」
と、お年寄りに絡みついていたモヤモヤが全て頭上に集まって黒い玉になった。
「…！」
するとお年寄りは俺にもたれ掛かるように倒れ、黒い玉はまたフワフワと辺りを漂い何処かに消えた。
ほぼ同時に俺の体もまたがくりと重くなった。今の状態だと人の体を支えるのがキツい。
「おぃ。じいさん！しっかりしろよ。さっきまでの元気はどこいった！？」
「うぅ…。」
弱りきったお年寄りを先生に預け、消えた黒い玉を追った。
さっきまではあんなに動けたのに、あの黒い玉が消えたら廊下を歩くのも辛い。息を切らしながら歩いていると足がもつれて転んだ。
「くそっ！」
握りこぶしで冷たい床を叩く。
何でこんなにしてまでアレを追うのか？
答えはバイク事故。
黒いモヤモヤ。
俺は病室で見る前に見ていた。
あの瞬間。
。
衝突する寸前に見た運転席の男にはアレがついていた。
全てはアレが引き起こしていた。
もう一度床を叩く。