アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
足音もいよいよ近づき、目撃されると面倒だからここから離れることにした。
バットを拾い、少し離れたとこに停車中のバイクに向かって駆け足する。
地面に倒れた男に未練が残ってなんともすっきりしない。
「つーか、こんな時間にランニングすんなよな!」
と、バイクまでたどり着いてやっと気づいた。
「やっべぇ…。」
もしまだ、あの男の中にマッドボールが潜んでいたら次の標的は間違いなく…。
直ぐに回れ右してダッシュした。
幸いにも俺の方が先に男までたどり着いた。思いきり走ったもんだから息が苦しい。
マッドボールは出てきて無い。
俺が深呼吸していると、足音の主が男から少し離れたとこで立ち止まる。
「アンタは!」
と、俺に向かって発せられた声は聞き覚えがある。
病院でマッドボールと戦ってた女だ。
彼女はまず俺の顔を見てから横たわる男、釘バット、に目を向けて更にもう一度俺を見た。「おう!元気にしてたか?」と言おうと思ったら、女はいきなり竹刀で殴りかかってきた。
俺は難なく釘バットで受けた。間髪入れずに次の打撃が繰り出される。まるで格闘映画のワンシーンみたいな攻防を繰り広げながら、俺は少しずつ後退させられていった。
俺はこの戦いの状況に戸惑いと喜びを感じていた。
彼女にケンカを売られる理由は無い。だから対応に困ってる。でも…彼女は最近戦ったどの相手よりも強い。それが、楽しくて仕方ない。
ところで俺は彼女に誤解されているんだと思う。俺がマッドボールに取り付かれていて、あの男に暴力を働いた、と。
「(しばらくは誤解されたままでも良いか。)」
彼女と戦うのがあまりに楽しくてそう思った。
だから俺は振りをする。
「どいつもこいつも…!ムカつく野郎ばっかりなんだよぉっ!」
俺は吠えた。彼女を騙すために。
ちょっと反撃してみる。が、見事に弾き返され脇腹に一撃もらった。
どうやら彼女は俺みたいに格好を優先にして武器を選んでいるわけじゃ無く、剣術に自信が有るから竹刀を握っているみたいだ。
一撃もらったせいも合ってさっきから彼女の攻撃を防御するので精一杯だ。
「(マズイなこれ…。)」
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