アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
強い相手は嬉しいけど、強すぎるのは困る。特に今みたいな状況だと。
釘バットを握る手が重たくなっても、彼女の攻撃は衰えるどころか勢いを増してくる。
何か打開策は…?と、彼女の後方にほんの一瞬目を向けたら鳩尾に重い一撃をくらった。
「ぐわっ!」
俺は情けない声を出して思い切り地面に尻餅を着いた。
痛すぎて気を失いそうになる。
彼女は今まで見てきたどの女よりも冷たい目で俺を睨み付け、竹刀の先を顔に向けてきた。
俺は釘バットを投げ捨て降参をしてから、彼女の後ろを指差した。
「マッド…ボール…。」
彼女はハッとして振り返りあの男から出てきたマッドボールを見付けると、俺にトドメを刺さずにマッドボールに向かって行った。
「助かった…。」
俺は投げ捨てた釘バットを拾って杖代わりにしてよろよろと立ち上がり、バイクに向かってよろよろ歩く。
とにかく今は逃げる事しか頭に無い。
そんな自分に苛立ち、釘バットで思い切り地面を殴り付けた。釘バットは真ん中から2つに割れて、先の部分は道路に飛んでいった。手に持っている残りを思い切力を込めて投げ捨て、バイクに跨がりヘルメットも被らないままエンジンをかけて俺は逃げた。
彼女がどこまでも追ってきそうな気がしてひたすらバイクを走らせた。
ミラーからヘルメットが落ちても、信号が赤でも俺はアクセルを回し続けた。
大声を出しながらどこまでも走る。
痛みをまぎらわすためじゃ無くて、悔しくて、嬉しくて仕方無くて俺は叫んだ。
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