アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
広い休憩室の中では明らかにさっきよりも小さくなったマッドボールに彼女が容赦無く攻撃していた。
「こっちもそろそろゲームセットだねぇ。」
そう言っている間に彼女はトドメをさして、マッドボールは消滅した。
戦いが終わると静かなもんだ。彼女の軽く乱れた息づかいしか聞こえない。俺はその静寂をぶち壊した。
「どーも。こんにちは。疲れてるとこわりぃけど、今度は俺の相手をしてくれっかな?」
悪役っぽくミステリアスな雰囲気をはらませて言った。
つもりだ。
彼女は不機嫌な顔で俺を睨み付け、さらに竹刀の先端を向けて言った。
「アンタがここの親玉ってわけ!?覚悟しなさい。」
おぉ!見事な勘違い。
嬉しいけど、どこか寂しい。
なんで微妙な心境なのか自分でも分からないけど。
「まぁ何でもいいさ。」
まず、俺が彼女に向かって突進と同時に釘バットを振り回す。彼女はひらりと跳んでかわし、近くの机に着地。俺はすぐさま振り替えって今度はしっかりと狙って振り回す。が、彼女はサーカスの役者みたいにぴょんぴょん飛び回って避け続ける。なかなか攻撃してこないのは彼女も避けるのが精一杯だからだろうけど、こんなやり取りを続けていたら俺がへばってしまう。
短期決戦が俺のスタイル。持久戦は俺のスタイルじゃない。
「ん、にゃろーー!」
と、熱くなったところで悪い方向に転がるのは目に見えている。
攻撃されるのを覚悟で大きく深呼吸。
よし!
やり方を変えよう。
「ぐおー!!」
雄叫びをあげて部屋を飛び出し、そのまま出口に向かって疾走。
彼女は少し戸惑いながらも追いかけて来た。
狙い通りの展開に少しだけ笑う。追う側から追われる側になって一見不利になったように見えるが、俺の中では7対3でこっちが有利だ。
もうすぐ出口というところでいきなりの急停止と急転換と急突進しながらの強烈な突き。まさにトリッキーな攻撃に彼女は避けずに弾こうとしてきたが、バットに刺さっている釘が数本抜けただけで初めて彼女に一撃入った。最初の狙いから大きくそれて右の太ももに当たったものの確かな手応があった。彼女は直ぐに俺から距離をとったが、その仕草は明らかに右足を庇っていた。
「俺の勝ち…かな?」
「そんなわけ…。」
彼女はゆっくりとしゃがんだ。
「…?」
「無いでしょ!」
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