アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
ヤツは攻撃が終るとその腕を縮めて、ゆっくりとこちらに近づいて来る。
これで素早かったら目も当てられないといったところだ。
「さて、あのヤツはどうするかね?何か良い考えある?」
彼女は俺を睨みこそしなかったけど、凄く真剣な眼差しでヤツを見ながら立ち上がる。
「そうね、アイツは攻撃の動きは速いけど移動は遅いわね。」
あんまりに彼女が真剣だから笑いそうになったけど、そこは堪えて彼女に合わせて出来る限り真剣に相づちをうつ。
まぁこの状況下ですら緊張感のない俺は今後の為にも彼女を見習うべきなんだろうけど。
「でもダメージを与えられるとしたら、アイツが攻撃してくる時だけだと思うの。」
なるほど。と、俺。
「身軽なアタシがおとりになって攻撃を引き付けるから、アンタは隙を見て攻撃して。」
俺が、分かった。と頷くと早速彼女は動き出した。ヤツの後ろに回り込み同じように攻撃を繰り返す。対するヤツはゆっくりと回転し両手を横に広げた。するとさっきと同じように腕が巨大に膨れあがった。
「今よ!」
と彼女が言うより早くヤツに接近していた俺は、すかさず背後から肩と腕の付け根部分を思い切り釘バットでぶん殴った。
が、
「固っ!」
ぎゃりっ。と歯切れの悪い音がしただけでヤツはびくともしていない。
腕を叩き落としてやろうと考えていたのだが、それどころかヤツに当たった部分のバットの釘がぐにゃりと曲がってしまった。
俺の攻撃に気づいたヤツは背を向けたままチョップしてきた。
そもそも黒いモヤモヤだから後ろ前が有るのかさえ分からないけど。
どがん。と音が鳴りマンガみたいに床が砕け、辺りに大小の破片が飛び散り粉塵が舞った。
俺は横に転がって直撃は避けたものの飛んできた破片は避ける事は出来なかった。
彼女の大丈夫?という問いに手を上げて、問題なし。と叫んで返事をした。
すると彼女は再びおとりになりヤツの注意を引き付ける。
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