アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
堂本は静かに続ける。
「久しぶりだな。元気が無さそうじゃないか?大丈夫か?」
その口調に全くと言っていいほど気遣いは感じられなかった。
「お前こそ大丈夫かよ?何か変だぜ?」
「変なのはお前の方だろ。何で必死になってんだよ。諦めちまえばいいじゃねぇか。無駄って分かってんだろ?本当はその女のこと信じきれて無いんだろ?」
ぼんやりとだが滝本の姿が見えた。その姿は灰色よりも黒が濃くてそのせいでぼんやりとしか見えないと分かった。
「お前もこっちに来いよ!その女みたいに楽になれるぜ。なぁ滝本?」
俺に向かってゆっくりと手を伸ばす堂本の身体はより黒が濃くなって、いよいよ闇に溶けてしまいそうだ。
これはクロちゃんが見せている幻覚なのか?それとも本当に堂本なのか?だとしたら助けてやらないと。
まぁどっちにしろ、
「詩織ちゃんは負けねぇよ。お前にはわかんねぇかも知れねぇけど、詩織ちゃんは強いんだよ!俺よりも。お前よりもな!」
そう言ったとたん堂本は俺を睨む。
「何にも分かっちゃいねぇんだな。お前のその姿が言葉が…気にくわねぇ!」
堂本が叫ぶとまともに立っているのが精一杯なくらいに強い風が吹き付けてきた。詩織ちゃんを背負ったままの俺はバランスを崩して転び、彼女もまた砂の上に転がる。すぐさま立ち上がったけどこの強風の中で横たわる彼女を背負うのは無理だった。しかも悪いことに砂が物凄い勢いで吹き積もり彼女が埋まりそうになった。
「くそっ!」
彼女に覆い被さるようにして守ったが積もる勢いはおさまらず成す統べ無く俺も詩織ちゃんも黒い砂に埋もれてしまった。
歩き疲れていたせいか急に睡魔が襲ってきた。薄らぼんやりする意識の中で、さっきの風の吹きつける音が堂本が苦しそうに叫ぶ声に聞こえた。と、そんな事を思っていた。





「近くで見るとでけぇな。」
校門でマッドボールを眺めていたあの男。今は屋上で標的を見ながら1人呟く。
「アイツ…いると思ったんだけどな。無駄になっちまったか?」
そう言いながら持っていた竹刀をそっと入り口近くの壁に立て掛けた。
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