「こころの音」
この匂いはもうこの家では嗅ぎ慣れた匂い…

母親が急に起き上がった。
ろれつのまわらない声で、
「いつもの…買ってきて…」
私にお金を渡す…
お酒のことだ。

ゆうこは無言で外に出た。
もう夕方…お酒を買いに行く途中、ご飯の支度をしている家の音が聞こえる。

そういう暖かそうな普通の家が羨ましかった。

夕暮れの中、みじめな気持ちが胸に広がり、涙が一粒こぼれた……

ゆうこはお酒をコタツの上に置き、何事もなかったように、宿題や明日の用意をし、テレビを見ていた。

母親は台所にフラフラと立って、ゆうこが買ってきたお酒を、そのままグビグビと飲んでいた…

飲んだ後はまたコタツのところにころがって横たわっている。

(お腹空いたなぁ…)

ゆうこは冷蔵庫から、ソーセージを一本出して食べた。
もうすぐ父親が帰ってくる…
ゆうこは帰ってくる前に、布団にもぐった。

ガチャン…とドアの開く音。父親が帰ってきた。
部屋に入り、
「また飲んでるのか!!」
何度も怒鳴って、足で蹴ってる音が聞こえる……

これが嫌で、ゆうこは早くに布団にもぐって、寝たふりをしている。

こういう生活は大体半年は続く…
お酒に飽きるのに、そのぐらいかかると、この時のゆうこは思っていた。
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