超人戦争
 デーモンとアフロンは、漸(ようや)く息肩(そくけん)した。ここまでくれば、後はシノール(シドニーのこと)に在る神軍ネシア軍司令部を衝(つ)くのみである。デーモン軍はメルボルン入城の夜半(やはん)、祝宴(しゅくえん)を張った。
 超人兵はムーンライトの下、人肉に舌鼓(したつづみ)を打っている。超人軍は人間を遠慮なく腹の中に納めたが、天使は丁重(ていちょう)に扱った。これはサタンの威令(いれい)によるものであった。
 メルボルンの戦いにおいて、金星より徴兵(ちょうへい)されたビーナスという天使が、捕囚(ほしゅう)の身となっている。デーモンとビーナスは昔、深い仲であった。ビーナスは最上級の美体(びたい)に恵まれた、美の化身(けしん)である。デーモンとビーナスは、美男美女のカップルとして、有名であった。
 デーモンは地球、ビーナスは土星に赴任し、遠距離ながらも時折逢瀬(おうせ)を愉(たの)しんでいた。恐竜戦争勃発(ぼっぱつ)時、ビーナスは神軍に真先に捕縛(ほばく)され、戦後は改心させられて金星に着任していたのである。それが超人戦争に駆出(かりだ)され、俘虜(ふりょ)となってしまったのだ。
 デーモンは宴席(えんせき)をそっと抜け出すと、ビーナスが収監(しゅうかん)されている独房(どくぼう)に向った。警備兵を下がらせると、高圧電流の流れるドアーを開けた。デーモンとビーナスは数十年振りの、奇妙な再会を果たしたのである。
「デーモン」
 ビーナスはルージュの口元(くちもと)を、戦慄(わなな)かせている。
「久し振り」
 デーモンはビーナスの真正面に、腰を下ろした。
「ビーナス。君までが動員されていたとはな」
「何故、こんな戦争を始めたの?貴方は」
「父上は確かに偉大だ。この大宇宙を創造されたのだから。併(しか)し、幾ら創設者だからといって、生命体の生死を自儘(じまま)に決めてよい、とは思わない。父上は超人を、絶滅(ぜつめつ)しようとした。私はゼノンによって北極より救出され、サタン様に超人の生命を守る為に共闘(きょうとう)するよう、請願(せいがん)された。私は恐竜の生存権を専守(せんしゅ)すべく奮闘(ふんとう)した過去に、一片(いっぺん)の悔いもない。サタン様が私と同じ心境に達していたのが、嬉しかった」
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