超人戦争
 シヴァは戦争の神とされるマルス(現在地球軍参謀総長である)と、折合いが悪かった。だがこの劣勢下では、そんな些事(さじ)に頓着している場合ではない。神はシヴァに神の代将たる権限を付加(ふか)し、ケミン軍司令官アモンと協力して、ケミンを防衛する様神命をくだしたのである。
 シヴァは四本の腕を持ち、顔目(がんもく)は温容(おんよう)そのものだが、筋肉質のスリムボディが威圧(いあつ)感を与える。
 シヴァ軍団の到来は、ケミン軍の士気を昂揚(こうよう)させた。シヴァは現ウエリントンのケミン軍本営に入るや、幕僚(ばくりょう)を会同(かいどう)させ、オーストラリア及び南極からの二正面進攻に備え、北島、南島を要塞(ようさい)化し、籠城(ろうじょう)戦に入ることを宣示(せんじ)したのだった。

 デーモンは超人軍副司令官として、早期にオーストラリア、南極から同時にニュージーランドを攻討(こうとう)するようサタンに進言(しんげん)した。この提言は即決され、三月一日を以てアフロンとグニダールに各々(おのおの)ケミンに進撃せよ、と軍命が下ったのである。
 
 ビーナスは捕虜収容所に、幽閉(ゆうへい)されている。                 
 宇宙一の美女と名高いビーナスの南極連行は、大陸中に知れ渡っていった。デーモンはビーナスに求婚したのだが、ビーナスは拒絶し、一虜兵(りょへい)として、不遇(ふぐう)の日月(にちげつ)を過していた。
 デーモンは二月内に、何とかビーナスと縒(よ)りを戻そうと、サタニウム郊外(こうがい)の収容所に日参(にっさん)した。
 ビーナスはデーモンを嫌悪(けんお)している訳ではない。その心根(こころね)は五十年前と不変である、と言ってもよいであろう。
 デーモンはビーナスの父であり、上官でもある神の敵なのだ。デーモンは造物(ぞうぶつ)主(しゅ)たる神に反逆する神(しん)敵(てき)なのである。やがて南極軍は神軍によって、跡形(あとかた)も無く消滅(しょうめつ)するだろう。デーモンは賊将(ぞくしょう)として再び細(こま)切(ぎ)れにされ、痛苦(つうく)のみの無間(むげん)地獄(じごく)に閉塞(へいそく)されよう。
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