超人戦争
 デーモンの温かい目(もく)容(よう)にビーナスは、
「まあまあ、ね」
 と強がった。
 昼間でも薄暗い部屋に対する不満は多々あるが、それは要求しても詮(せん)無き事である。ビーナスの隆起(りゅうき)した愛らしい鼻梁(びりょう)が、デーモンや超人兵の眼前(がんぜん)では倨傲(きょごう)そのものに活写(かっしゃ)される。
「そうか」
 デーモンはビーナスの虚勢(きょせい)ともとれる正直な弁に、頷首(がんしゅ)した。
「今、超人間には、或る不平不満が渦巻(うずま)いている。君達天使に対する扱いへの怒りだ」
「神軍は超人の捕虜を、皆殺しにしている」
「父上は、悪魔絶滅命令を下されています。悪魔はサタンの私造物(しぞうぶつ)であり、この世に居てはならない邪悪(じゃあく)な種族なのです。宇宙の敵だわ」
「宇宙の敵、か。まあ、今夜はそんな討論をしに来たのではない。私は君の肉片等見たくない」
「神軍が最終的には勝つわ。神軍が負ける事など有り得ない」
「私は君を助けたい。形だけでも良いから、転向(てんこう)してくれ。もう妻になって欲しいとは言わぬ」
「転向?」
「目下の動静(どうせい)では、何れ天使は悉(ことごと)く肉片の刑の処されるようになるだろう。我々は超人の意見の上の乗っているのだから。生きる為に、転向して欲しい。君の惨(むご)い姿を目にしたくない」
 ビーナスは沈思(ちんし)している。
「頼む。私は君が好きだ。君が傷つけられるのは、吾(わが)身(み)を切り刻まれるよりも辛く苦しい。超人達に理解を示し、神軍に賛同しない、と誓約して欲しい」
 デーモンの説得は、迫切(はくせつ)していた。その言霊(ことだま)が本心から出ている、とビーナスにも以心伝心(いしんでんしん)した。
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