小春日和
「笹本先輩?…泣いてます?」
突然後ろから聞こえた野田くんの声にビクッと肩が跳ねた。
いそいで目元を制服の袖でゴシゴシ擦って振り返った。
「泣いて、ないよ」
「嘘、吐かなくてもいいじゃないですか」
せっかく拭いた涙がまた出てきそうになった。
気付いてくれたことがちょっと嬉しかった。
野田くんは優しい。
でもね、優しすぎるんだよ。
だから嫌いになれなくて苦しいんだ。
悪い人じゃないよ。いい人じゃん。って思えば思うほど嫌いになりきれなくて苦しい。
中途半端な思いが辛い。
「ごめん…でも、大丈夫っだから」
なんとかそれだけ言いきって今度は走って教室まで戻った。
もう野田くんは追いかけてこなかったから途中の階段で立ち止まって息を整えて教室にはいった。
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