死霊むせび泣く声
 不意にメール用の着信音が鳴る。


 俺がフリップを開くと、里夏からだった。


 <今、秘書課を出るから、あと十五分ぐらいエントランスで待ってて>と打ってある。


 俺はパタンと閉じ、その場所で待機し続けた。


 やがて里夏が降りてくる。


「お疲れ様」


「お疲れ。……じゃあ、飲みに行こうか?」


「ええ」


 彼女がそう返し、俺たちは並んで歩き出す。


 俺も里夏もまだ若いが、ちょっと洒落たバーで飲むのに抵抗はない。


 互いに成熟した大人である証拠だ。


 俺たちは夜の街を歩きながら、灼熱に程近い夜空が降りてきたのを肌で感じ取る。


 ショットバーは街の目抜き通りにあり、辺りは結構人が多い。
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