死霊むせび泣く声
と懇願すると、今村の背後には綾田伊予丞が現れて、


「この男を殺さないといかんな」


 と凄(すご)みを利かせる。


「く、来るなよ」


 怯え切っていた俺の目の前で今村が刀をブッと振り下ろす。


 刀が空を切る音がして、俺は恐怖のあまり思わず目を瞑(つむ)った。


 一瞬たじろいだが、目を開けてみると、液体と固体が混じった血の塊がある。


“殺されなくて済んだ”


 俺は一転安堵し、鏡を見つめる。


 鏡面には何も変わらない自分が映っていた。


 タオルで綺麗に顔を拭き、水道の水で血の塊を洗い流すと、俺はすぐにカバンを持って出勤する。


 胃に何も入れてない。

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