死霊むせび泣く声
 一歩一歩踏みしめながら、歩き出す。


 やがて風呂場に入っていくと、鎧兜に甲冑(かっちゅう)の武者が刀を研ぎ石で研いでいる。


「何だ、お前?」


「名乗るほどの者ではない」


「人の家に勝手に来るな!」


 俺が激昂(げっこう)してそう言うと、それまで後ろ姿だった霊が振り返った。


 歯茎(はぐき)をむき出しにして、ニヤリと笑い掛けてくる。


 俺が、


「帰れよ!」


 と言うと、その霊が、


「また来るからな。覚悟しておけよ」


 と返し、次の瞬間スゥーと消えた。


 跡には小さな水溜りが出来ている。

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