死霊むせび泣く声
 綾田伊予丞も俺に近付いてくる。
 

 瞬間ズバッと刀が空を切る音がして、俺がおずおずと前を見つめると、そこには赤い血が混じった水溜りが出来ていた。


「な、何だったんだ……?」


 嫌な余韻が残りながらも、俺は小津原が言った通り、キッチンの戸棚から塩を取り出し、グラスに一杯水を注ぐ。


 そしてそれらを霊がいた場所に置いた。


 さすがに今から四百年以上昔は戦乱・動乱の時代で、河原で斬首された負け組の武将たちは無念だったろうと思われる。


 俺が水と塩を置いた瞬間、血の水がスゥーと消え去った。


「もう二度と出てこないでくれよ」


 俺はそう言い、帰って早々取り乱していた格好を整えるために、着ていたスーツを脱いで、クローゼットのハンガーに掛ける。


 そして靴下を脱ぎ素足になると、着替えのシャツとトランクスを持って、風呂場へと行った。

< 85 / 155 >

この作品をシェア

pagetop