引っ込み思案な恋心。-1st
「俺?うーーん。今んとこいねえなぁ。なぁ、拓はどう?」
倉本くんは一言で自分の話を終わらせて、麦茶の片付けを始めようとしていた瀬川くんに話を振った。
「は?俺?」
驚いた瀬川くんは、しばらく無言だった。
けど、麦茶のグラスを自分の真ん前に集めながらゆっくりと口を開けた。
「……いないことはないけど」
「!!!」
その場にいた全員の視線が、瀬川くんの顔に一斉に向いた。
…瀬川くん、好きな人がいたんだ。
全然知らなかった………。
……あれ?
何か私、…ショック、受けてない??
「えー!?知らなかった!誰誰??」
一番に瀬川くんに突っ込んできたのは、あゆ。
けど、あゆを始め、興味津々な視線たちに気付いた瀬川くんは、急に動きを止めて下を向いた。
「いや、言うほどの人じゃねえし!」
瀬川くんはそう言うけど、ますますあゆはヒートアップ。
「言わなかったら余計気になる!!」
「そうだよ。そこまで言ったなら言っちゃいなよ」
ななっぺも加わって瀬川くんに聞いてたけど、瀬川くんは下を向いたまま首を横に振っていた。
私も、気になる。
気になる………、あれ、何で気になるの?
よく見ると、下を向いたままの瀬川くんの顔が真っ赤だった。
…その人のこと、本気で好きなんだ…。
「俺、ぜってー言わないから!!この話は終わり!!もう夕方だしとっとと帰れよ!」
けど、瀬川くんは好きな人の名前を決して口にすることはなかった。
あゆ達にどれだけつつかれても、瀬川くんはただ「帰れ」とばかり繰り返して、私達は瀬川くんに言われるがまま瀬川くんの家を出た。