引っ込み思案な恋心。-1st
「あっ、終わったみたい。おーーい、あゆーー!!」
気付けばバトンの受け渡し練習は終わったらしく、隣のあかねちゃんは大声であゆを呼びながら両手を振っている。
私もあかねちゃんと一緒に右手を振ると、あゆはようやく私達に気付いてくれた。
「柚、あかねちゃん、お疲れ!あれ?ななっぺは?」
「んー?あ、あそこでむかでの練習してる〜!」
「ホントだ。わ、全然足揃ってないじゃん」
「はははっ!おかしー!」
あかねちゃんとあゆがななっぺ達のむかでの練習を見て笑っていて、私もそれに続いて微笑んでいると、後ろから大声が聞こえた。
「じゃあ、俺が細井の代わりになってやるよ!!」
「「「え?」」」
三人一斉に後ろを振り返ると、そこには得意気な顔をした瀬川くんが立っていた。
「なんでそこで瀬川が出てくんのよ?」
瀬川くんの顔を見て、あゆは一気にテンションが下がったようだった。
けど、瀬川くんはそんなあゆの様子も気にしていない。
「なんでって、多田と俺、出場種目が同じなんだから、多田がヒマな時は俺もヒマなんだよ」
…そう言えばそうだった。
あゆも瀬川くんも、出る種目はリレーと徒競争。
二人とも練習と言えば、リレーのバトンの受け渡しぐらいしかないってことか…。
「いつもは俺達、勉強会で杉田に世話になってんじゃん?だから、今度は俺らが杉田にコーチする番だな♪」
そう言って、瀬川くんはニッカリ笑った。
すると、あゆとあかねちゃんもそれに同調した。
「まあ、そこは瀬川と同意見だよね、あかねちゃん」
「じゃー、うちらも分かりやすく、且つビシバシといきますかぁ〜〜」
あゆとあかねちゃんも二人で目を見合わせて、ニッコリ笑った。
「え…?」
3人の笑顔がやけに怖く見えて、私はただただ表情が固まっていった。