おしゃべりな百合の花
Sun.
とある都心の駅構内。
ごった返す人混みを、器用に間をぬって、有坂龍一は改札口向かいにある本屋に向かって歩いていた。
本屋の雑誌コーナーには、数人の立ち読み客。
時間をつぶしているだけで、本を買う気はさらさらない連中なので、客とは呼べないが。
そのうちの一人、20代後半の男の左隣に立ち、龍一はプロレス雑誌を手に取りでたらめにページをパラパラ捲った。
男の足元には大きなボストンバッグが無造作に置かれていた。
それを男と挟むようにして、龍一は立っている。
「13 85」
雑誌を見入ったまま、男がボソリと呟いた。
それを聞くと龍一は、雑誌を棚に戻し、足元のボストンバッグをまるで自分の荷物であるかのように、当たり前のように右手で持ち上げ、涼しい顔で颯爽と歩き出した。
男も何も言わず、何事も無かったように立ち読みを決め込んでいる。
龍一は大股で歩きながら、左腕を一旦前に突き出した後、肘を曲げて袖から腕時計を露出して時間を確認した。
14時16分。
龍一は小さく舌打ちした。
『ふざけんな。』
心の中で呟いた。