おしゃべりな百合の花
 窪田の合図を見逃さないよう瞬きすら自ら禁じ、龍一は静かに呼吸を整える。


 後部座席から、でっぷりとした中年男が難儀そうに姿を現した。


 標的が所属する暴力団のお抱え弁護士、迫田博文。


 相当なやり手で、これまで組が犯した数々の事件の裁判で、完全なる黒を、白に覆してきた男だ。


 『こいつを消す方が、よっぽど手っ取り早い。』


 龍一は内心、そんなことを考えていた。


 そして、弁護士に続いて、ようやく標的が姿を現した。


 窪田が眩しそうに青空を見上げ、サングラスを片手でかけた。


 狙撃の合図。


 龍一は躊躇なく引き金を絞った。


 標的はその場に崩れ落ち、辺りは騒然とした。


 龍一は素早く狙撃銃VVSを再び解体するとバッグに収納し、それを片手に屋上を後にした。


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