おしゃべりな百合の花

　その日の朝は、美百合が働く店へ行けなかった。


　起きたのが昼過ぎだったからだ。


　窪田と別れてすぐ帰宅したものの、龍一はなかなか寝付けなかった。


　美百合の身が危険にさらされていると思うと、不安で仕方がない。


　今朝行かなかったので、美百合が心配しているかと案じ、龍一はディナータイムに店を訪れた。


　店に入るなり、『りゅういち！』と歓喜の声を上げ、美百合が眼を輝かせて両手を広げて近付いて来た。


　咄嗟に龍一は、右手で美百合の額を押さえ、抱きつかれるのを阻止する。


「仕事しろ。」


　額を押さえつけたまま、龍一が冷ややかに言った。


　美百合は龍一の手を振り払ってまた膨れたが、しぶしぶ厨房に戻って行った。