おしゃべりな百合の花
 メニューと水を持って来て、美百合は無言でそれを、龍一の目の前に置いた。


 見上げると、まだふて腐れている。


 龍一はメニューを手に取って開き、それに目をやりながら溜め息をついて、


「俺が優しいのは、二人きりの時限定だ。」


 美百合だけに聞こえるように、小声で囁いた。


 美百合の顔が瞬時に赤らみ、まだ膨れてはいるものの、もじもじと照れくさそうに身体を左右に揺らした。


「『本日のお勧めパスタ』を。今度こそ口から食べたい。」


 そう言って、龍一は意地悪に微笑んで、美百合にメニューを返した。


 美百合はそれを受け取ると、去り際に、メニューをわざと龍一の顔にぶつけて、そ知らぬ顔で厨房へ戻って行った。


「くそっ。」


 龍一は右手で顔面を覆い、テーブルに肘を突いてうつむいた。

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