おしゃべりな百合の花
「ぐぁっっ…」


 悲痛な声を漏らし、男は左手で助手席の窓を押し、なんとかして挟まれた右腕を引き抜こうと、必死でもがく。


 龍一はさらに手に力を込め、男の右腕にスライドドアを食い込ませる。


 反対側から、さらに二人の男が姿を現し、龍一は再び銃を抜き、その二人に銃口を向けて動きを封じた。


 益々辛そうに、悶え苦しむ男に、龍一は冷ややかに言った。


「この件から手を引け。」


「出来るかよ、こっちだって命懸けなんだ。」


 龍一は他の二人に向けていた銃を、一瞬だけ下ろして男の右足の指先に難なく命中させると、すぐまた二人に狙いを定める。


 龍一の動きに無駄は一切ない。


 男が堪らず大声をあげた。


「飼い犬が言う事聞かなくなったなら、さっさと殺せばいいだろ!?娘は関係ないはずだ。」


 美百合に聞こえないように、声を潜めて男の耳元で囁いた。

< 50 / 85 >

この作品をシェア

pagetop