おしゃべりな百合の花
 龍一がそっと離れ、二人はどちらからともなく歩き始めた。


 アパートの部屋の前まで来たが、美百合は鍵を開けようとせず、ドアに向かうように立ち、黙ってうつむいている。


「どうした?」


 龍一がまた不安になって、美百合の顔を覗き込もうとすると、美百合は不意に顔を上げ、


「もう行って。お願いだから、もうここへは来ないで。」


 美百合の肩が小さく震えだし、ふっくらした頬は、たちまち涙で濡れた。


「何故だ?どうしてそんなこと…」


 龍一が美百合の頬を両手で包むように支えると、美百合は目を逸らした。


「愛してる…お前のためだったら何でもする。死んだって構わない。」


 龍一の目には涙が滲み、重そうに瞼を落として目を伏せると、それは溢れだして、龍一の頬を伝って落ちた。


「もう逢わないつもりなら…『死ね』って言ってくれ。そしたら迷わず、今ここで、俺は死ぬ。」


 龍一の声は、いつしか嗚咽に変わっていた。


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