おしゃべりな百合の花
 泣きながら、すがりつくように懇願する龍一に、美百合の心は揺れた。


 ゆっくりと視線を龍一に戻した。


「もう愛してないなら…頼むから、俺を殺してくれ。」


 さらに龍一は、悲痛な言葉を漏らした。


 つい先程の、恐ろしいほど冷酷な表情をした龍一と、今目の前にいる、ほんの僅かな衝撃でも壊れてしまいそうな龍一が、とても同一人物には見えない。


 そんな龍一を見詰めていたら、美百合が心の奥底に封印しようとした感情が、一気に逆流し始めた。


 龍一の正体が何であれ、美百合は龍一を愛している。


 鮮明に蘇る、龍一への想いに、もう逆らうことはできない。


 美百合は自分の両頬に添えられた龍一の手を、上から優しく握ると、そっと下へ落とした。

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