おしゃべりな百合の花
 モーニングが運ばれて来ると、龍一は、目線を新聞記事に走らせたまま、トーストを大きな右手で易々と掴み、大口を開けてかぶりついた。


 彼女は、龍一の豪快な食べっぷりを初めて目にした時、その端正なルックスとのギャップに驚き、そして、どうしようもなく惹かれたのだった。


 料理を運んで来た彼女は、いつもなら、そうして龍一が食事に手をつけると、気持ちいい程の大胆な食事風景をほんの一瞬眺めた後、すぐに厨房へと消えるのだが、今日は違った。


「あの…お仕事は何されてるんですか?」


 その場に留まり、意を決して龍一に唐突に話しかけた。


 龍一は聞こえていないのか、一向に食事の手をとめる気配はなく、返事すらしない。


「ええっと、聞こえてます?」


 戸惑いがちに、彼女はもう一度、恐る恐る話しかけた。


 『絶対に聞こえていて無視している』


 彼女はそう確信すると、心の深部から激しい怒りが込み上げてきた。


「あのー、お仕事何してるんですか?」


 若干キレ気味に、声のボリュウームも先ほどより少し上げて、もう一度問いかけた。


 龍一は、うんざりだと言わんばかりの不機嫌な表情を浮かべ、ようやく彼女に目をやった。


 龍一に真正面から見詰められて、彼女の心臓のポンプ運動が必要以上にせわしくなる。


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