おしゃべりな百合の花

　学校帰りの美百合は、今日もバイト先へ向かっていた。


　電車一本乗り遅れ、バイトに遅刻しそうだった美百合は、小走りと早歩きを交互に組み合わせて、移動時間の大幅削減を試みる。


　不意にカバンの中の携帯が震えだした。


　歩きながら、カバンの中を探り、電話に出た。


「今すぐ、実家に来い。」


　名も名乗らず、命令形。


　初めての電話なのに、それはないんじゃない？と美百合が抗議すると、電話の相手はなおも一方的に続ける。


「父親を殺して欲しいんだろ？その望み、叶えてやるから今すぐ来い。」


　用件だけ伝えると、電話は切れた。


「もう！私に『捨てないで』って泣きついたくせに！私の気持ち知った途端、偉そうに。」


　美百合は携帯をカバンに戻しながら、面と向かってはとても言えない愚痴を、一人でぶつぶつ呟いた。