おしゃべりな百合の花

「いいからもう行けよ。手筈は整えてある。」


　龍一の反論など聞く耳持たず、窪田はそう言い放った。


　龍一が窪田に頼んだのは、迫田親子の新しい生活場所の確保。


　尾藤達の手の及ばない、どこか遠い地の、この世に存在しない人物の住民票、二通。


　ただそれだけだった。


　そこで、迫田は、交通整備でも、倉庫内作業でも、何でもやって、美百合と二人、食べていくだけの金を稼げばいい。


　龍一は、窪田に渡された鍵を握ったまま、美百合と迫田を引き連れて、屋外へ出た。


　門の傍に停車してあった龍一の車は、タイヤが全部パンクしていた。


「あのクソガキ…」


　龍一は思わず舌打ちした。


　窪田の言葉の意味をようやく理解し、龍一は、美百合達に、その隣に停めてある窪田の車に乗るよう促し、自分も運転席に乗り込んだ。


　美百合達を乗せた車は、暗闇の中を疾走する。


　数年ぶりにわだかまりが解けた親子は、後部座席に仲良く座り、ただ黙って窓の外の景色を眺めていた。