おしゃべりな百合の花
 振り返って、美百合達に視線をやり、セスナに乗るよう誘導する。


 迫田が龍一の目の前に立ち、慎重に、選ぶように、言葉を掛けた。


「美百合の為とはいえ、私のような悪党に情をかけてもらって…本当に感謝している。」


 龍一は不意に、予想だにしなかった言葉を掛けられ、少し戸惑いを見せた。


 が、すぐ迫田を直視し、


「被告の弁護をするのが、弁護士の仕事だろ?あんたは職務を全うしただけだ。」


 と、窪田に指摘された時の言葉を借りて、迫田に自分の今の思いを伝えた。

 迫田は言葉を失い、ただ龍一に微笑むと、セスナに乗り込んだ。


 が、美百合は動こうとしない。


 龍一はそっと美百合に近寄り、力一杯抱き締めた。


「一緒に来て。」


 祈るように龍一を見詰める美百合の瞳は、たちまち涙で潤み、また涙が頬を伝って落ちた。


 龍一は美百合を抱き上げると、切なげに美百合を見上げ、


「俺はまだ、やらなきゃならない事がある。」


 そう言って、言葉を詰まらせた。


 が、再び口を開いた。


「全て片付いたら、必ず迎えに行く。」


 美百合が龍一の両肩に添えていた手を離し、龍一の首に両腕を巻き付け、その首筋に顔を埋めた。

 
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