この青空を君へ。
「・・・はら・・・すずはら・・・おい、鈴原」

はっと気づいたとき、キャンバス越しに宮田先生の顔があった。


「描きたいときだけ、描いたほうがいい」

先生はそう言って、私の真っ白なキャンバスを画材置き場に持っていってしまった。



宮田先生は美術部の顧問で、何も知らない私に筆の持ち方から教えてくれた先生だ。
私は大学に入る前から自己流で絵を描いていたけど、誰かに見せたり、教わったりすることはなかった。
でも去年の5月、たまたま通りかかったサークル棟の前の展示スペースに飾ってあった先生の絵を見て、次の日には美術部へ見学に行っていた。

その絵は、夕暮れの風景の絵なんだけど、そこに流れる空気まで感じる事ができるような不思議な絵で、私は飽きもせず、その絵をいつもいつも眺めた。


この間の春のコンクールで私の絵は初めて入選し、それが展示された県立ホールにはケイと二人で見に行った。



(秋のコンクールがあるのに・・・)



白いキャンバスを見たら自然に浮かんでくる線も色も今は何も生まれてはこない。



私は先生に「帰ります」とだけ声をかけて、静かに教室を出た。
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