あいつの頭の中(仮タイトル)
「いい?戸締まり、火の元はしっかり声に出して確認しなさいよ!」
心配性の母が何度も同じ事をあたしに確認する
「タオルはあそこのダンボール、あと今日の夜ご飯のおにぎりはテーブルの袋の中に入ってるから!それから…」
「もうわかったよお母さん、あとは何とかするから」
「そう?でもね美菜、人生何が起こるかわからないのよ、あっそうだわ!非常口の確認しなきゃね!それからセールスマンがきたら…」
「いらない、必要ないってはっきり断ればいいんでしょ!もうわかったから!非常口は後から確認するから!」
まだ何か言いたげな母の背中を、無理やり玄関に押し出す
母はいつだって、姉のあたしだけ、子供扱いをする
あたしが小さい頃病弱だったせいだろうか
「じゃあそろそろおいとまだな」
父が腰をあげると、さすがの母も黙って靴を履き始めた
「美穂行くぞ、美菜しっかりやるんだぞ」
「うん、ありがとうお父さん」
父は物静かな人だ
家では父が絶対的な存在だ
家族で唯一父だけが、あたしをひとりの人間として扱ってくれる
美穂も黙って帰る準備をする
「じゃあ…気をつけてね美菜、いつでも帰ってきなさいよ」
「今度お姉ちゃん宅に彼氏と泊まりにくるからー」
それぞれにさよならを告げて、車を見送る
部屋の扉がパタンと閉まる
やけに音が響いた気がした
静かな部屋は寂しいが、それよりもこれからのめくるめく生活を想像すると、顔がにやけてしまう
あたしは変わるんだ!
変わって、絶対家族を見返してやろうと誓った