水音
あたしは涙を拭うことなく、アパートを飛び出した。

あたしが向かうのは、やっぱり雑貨屋のバーだった。

「…ッ…コウさッ…ん…ッ」

その夜もコウさん以外誰もいなかった。

あたしが来るのを知っていたかのようだ。


涙はさらに溢れ、喉の奥からのオエツも苦しい程鳴り止まない。


コウさんに頭を撫でられ、やっと落ち着いた。

やっぱりコウさんの手は好きだなぁ。



でも、コウさんに話すのを一瞬躊躇った。

お店のスタッフは四人。

小さいが、バーも経営しているので、一人でも欠けると厳しい状況なのだ。

それでも、いずれ話さなくてはならない。


あたしは産むと決めたのだから…


「コウさん、ごめんなさい。赤ちゃんできたの…」

また目が潤む。


「何で謝るんだ?おめでとう。」


またポンポンってする。

あたしの目はもう限界で、また涙が溢れた。



そして、

「心配するな。」

と続けた。


初めて認められた赤ちゃん…

良かったね…


「ッあ…りがと…ッ…コウさんッ…」

「泣き虫なママだなっ」

とコウさんは笑ってくれた。






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